2/28() 晴れ 荒地山・土樋割峠

ヤブコギ、ストーカーそして花園

いつになく、好調なすべり出しだった。登山者でごった返す芦屋川駅前広場を、ささっとやり過ごし高座の滝分岐を右へ。「へー。あっちにもルートがあるんだ。」との声を尻目にサクサクとナマズ岩への坂を登る。でも今日のルートはナマズ岩ではない。岩の手前の点線道に入るのだ。そう、最近は「地図上の点線道」にちょっと嵌っている。

たしか、地図には宝泉水(湧き水)の少し先を、右折するように書いてあるが、意外にも、分岐の赤テープは宝泉水のすぐ近所にあった。小首をかしげながらも、今日の元気を確かめるように脇道に踏み入る。だが、それがそもそもの「失敗の始まり」だった。

テープを頼りにしばらく辿ると突然、眼前に堰堤が現れた。何のこれしき、と、先日教わったばかりの「堰堤越え」。途中、ロープなんかもあったりしてなかなかの趣向じゃんか。ワクワクするぜ。このコースはぜったいにおっちゃん達に教えてあげなければ。とさらに登る。

ところが、ふと気づけば、いつの間にやら赤テープは消え、それでも大よその目星をつけて、さらに厳しくなってきたブッシュの崖を無理やりよじ登っていけば、谷筋の細い枝に札がヒラヒラ「こちらのコースは谷越え。非常にキツイですぅ〜 荒地山まで
30分 気をつけて」とある。「何を子供だましのような事を」とせせら笑いながら、改めて地図を開いて見ると、今日の予定だった点線・・・ムムムその手前に、うっすらと水色の川筋。そこが現在地だ! ということに、やっと気づいた。

さて、ここで、引き返すか、さらに前進するかが運命の分かれ道だ。しかし、意味深な「札」が掛かっていた事自体、ここは「未踏の地」ではないわけだし、このルートを極めれば、私の株は急浮上する。思い上がりというのは、得てしてこのように哀しいものだ。

今、思い起こしてみても、もしもあの時・・・との反省材料は尽きない。だが、そこは素人の浅はかさというか、向こう見ずというか、間違ったことに気づいてからでも、少しでも踏み跡らしきところを辿ろうと、ますます無理な前進を続けてしまうことになる。一体、どのくらい居ただろう。途中で、ちょっと人の声がしたような気もしたが、それもいつしか遠退き、一人孤独の中ヤブをさまよう事1時間余。もう、どこまで仰いでみてもシダの生い茂る崖っぷちしか残っていない急斜面に喰らいついて、こんなことしていたら、今日はこれだけで終わってしまうんだ。と、本日の目標「マンサク探し」を思い出した。ため息を最後についに観念。敗戦気分で引き返そうとして、唖然となった。下の川原に下りるためのルートがない。周囲一体が、垂直に切り立った崖なのだ。なんで、こんなことになったのか、焦っても焦っても思い出せない。とにかく何とかしよう。と、しばらく木の幹につかまって、蟹の横ばいを試みてみてみたが、哀れにもポッキリ折れる枯れ枝、根こそぎ抜ける死んだ木たちに、冷たく突き放されてしまった。「絶体絶命とは、こういうことを言うのか」と、不思議なほど冷めた頭でうなじを垂れれば、ふと下界が目に入り、いよいよもって怖気づくので、慌てて天を仰ぎ、手当たり次第に何かにしがみつきながら、落ち葉で埋まった崖を、後ろ向きに滑り降り、いや、結局は落ちた

足が地に付く感触で我に返る。おぉ生きている。何はともあれ無事だった。五体満足が、奇跡にも思えたほどだった。

あんなにも意気揚揚と越えてきたロープ、堰堤を負け犬気分で引き戻り、もう少しで元の道に帰る、という手前になって、点線とは逆方向に伸びるペンキの細道を発見。こんな惨めな気持ちのままじゃ、どこへも戻れはしない〜♪ と、すがるようにペンキを辿っていく。果たして行き着いた先は、今日、わざわざ避けてきた、この前通ったばかりの「岩梯子コース」であった。

結局、私は、午前中の時間をすべて費やして「岩梯子」周辺をヤブコギをしていたことになる。と、荒地山でラーメンをすすりつつ呟く。
「あのカラスの声、アホーアホーに聞こえよる」と、
おじさんハイカーが、私にも聞こえよがしに笑っている。惨めさがつのった
気を取り直して、地図に顔を埋めつつ、今からのプランを練る。昨年地図につけた「マンサクマーク」が目に飛び込み。もはや、ここに行くしか敗者復活は望めない。と、何が何でも遂行する決意を固めた。

こんな時、悪い事は重なるもので、その後、先日通ったばかりのコースを再び誤り、迂闊にも「おたふく山」手前の谷を徘徊。
「諦め+自分をもてあまし」モードで、青ペンキを辿った先には、友達から警告されたばかりの「怪しい人影」。
「出たー!」まるで、お化けかUF騒ぎで一目散に逃げ戻り、結局は枝道から「芦有入り口」に一旦出て、アスファルト道を「おたふく山」方面へと、直射の中を驀進する。
目的地「マンサクマーク」に到着
2時半。如かして、唯一、頼みの綱のマンサクは・・・咲いていなかった。

無条件降伏とは、まさにこのような事なのだと、限りなく寂しく、なんで、こんな時に限って「明日何しよう」なんてことが、頭をよぎったりするのだろう。と、リュックを背負い直し、振り向きざまに、ふと、細枝に黄色い点々が、けなげにも、神々しくも、光っているのが目にとまる。
「あれ、咲いてる!」去年ほどではないにしても、確かに、咲いている。人目を避け、高い枝で微笑むかのように。慎ましやかに、伸びやかに。
急いでレンズを向ける。こんなちっぽけなデジカメでは、接写など望めそうもないが、この殺風景な原っぱに、力強く咲くマンサクは、文字通り春を先取りする花。
アングルお構いなしで、夢中にシャッターを切った。

よく見れば、谷筋にも数本。さらに艶やかに咲き誇る木が数本。「あるじゃないか」イバラに行く手を阻まれて近寄れないのが残念だが、そんな事は、かまうものかと、枝いっぱいに勝ち誇り咲くマンサク。それは、今日の行程が長ければ長いほど、惨めであればあるほど、がかけがえのない出会いのように思えて来るのだった。

感謝に震えて見上げた空は、いつの間にか真っ青に晴れ渡り、やがて、視界の広がった「風吹岩」からの遠望、種類の多さではどこにも引けを取らない「岡本梅林」の満開の梅。それらを堪能しつつ、あのマンサクのいじらしさを再び想って帰路についた。

春まだ浅き、下山道 コーヒー啜りて 一人かもねぇ。 

マンサク 
あなたを見たかった
風吹岩に立つ 岡本梅林
花盛り