‘04.1.31() 曇り時々雪 三峰山

雪山登山

満席の三峰山直行登山バス「樹氷号」に揺られること1時間。みつえ青少年旅行村に降り立つと、そこは一面の雪野ヶ原だった。 登山者でごった返す中、おそるおそるフリースの上着を剥いでみたが、バスのヒーターの余韻が、ほのかにお尻に残って寒さを覚えない。ボトルの水を一口含んで、これなら行けそうだ、と、きわめて楽観的に考えた

凍てつくアスファルト道が、滝への分岐あたりから本格的な山道に変わり、ここらで潮時かと荷をおろしてアイゼンを巻き始める人もいる。一瞬、躊躇するが、立ち止まると身体が寒さに気づいてしまいそうで、そのまま足裏に気持ちを込めながらひたすら前進。足元ばかりに注意を払っていると、カメラの三脚が目に入り、見上げた視線の先に、豪快な「不動滝」が、歓迎の水しぶきをあげているのが飛び込んだ。この水量なら、凍る暇もないらしい。先ほどのカメラマンにデジカメを頼んで、みんなでピースサインを決め込む。せっかく登るのなら、こちらの滝経由の迂回路がお勧めやと、口々におっちゃんのリードを称えた。

そこからは、雪さえなければ、秋に登った河内長野の「岩湧山」を思い出させるような美しい杉木立が連なていく。傾斜は、獣フェンスを抜けた辺りからどんどん急登になり、仰ぐ目線の向こうがさらに鋭く聳えるようになった。それを器用に縫うようにジグザグに登っていく。必死に高度を稼ぎながら、ふぅーっと荷を下ろして一息。見れば、麓からはどんどん人が湧き上がってくる。頭上にも点々と人の動くのが見える。その波をデジカメに収めようとして、ふと、垂直の杉の幹にびっしりとこびりついた雪が、白馬のたてがみのように幹に固まっているのが目にとまった。そういえば、どの木もどの木も一定方向に、この「たてがみ」を付けている。きっと、ものすごい勢いで吹雪いた時に、吹きざらしの雪が、そのまま張り付いたのだろう。まるで、バラエティー番組のレモンパイ合戦やなぁと、しばし見とれる。
「そろそろ、アイゼンつけようやぁ」と、下からわめくおっちゃん。それに気づかぬふうを装い、ザックを担いで再び登りはじめる。実を言うと、腰をおろしたが最後、スタミナ切れに気づくのが怖いのだ。

やがて、先ほどの「白馬のたてがみ」がどんどん分厚くなり、積雪もさらに深くなって、登りつめた先がようようの「造林小屋」だった。
ヤレヤレと、思う間もなく、不意に吹き上げてくる雪の粉と、谷からの追い風に煽られて、震え上がり、慌てて小屋に駆け込もうとして、開けっ放しの小屋の入り口や窓から、濛々とした煙が容赦なく噴出してくるのに巻かれた。なんと、小屋の中はすでに巨大な喫煙所。暗闇に煙が蔓延して、外にいても臭いだけで噎せ返りそうだった。 観念して軒下でカップめんをすする人もいるが、同じ食べるなら、と、憎々しげに頂上へとコマを進めた。

いつの間にか雑木林に変わった尾根伝いの道は、枝に積もった雪がちょうど目の高さになり、「天下の樹氷」の臨場感を盛り上げてくれている。でも、ぼぉーっと眺めていると不意に突風を喰らって足元を掬われそう。まさに逃げ場なしのトラバースだった。

「今日は良いですよ」毎年ここへ登っているというおばさんが、こんな悪天にもかかわらず話しかけてくる。以前には終始、みぞれ交じりだった事もあるし、反対にこれ以上晴れると、ものすごい人の波に押されて、まさかまさかの「民族大移動」になってしまうらしい。

1250分、ようよう頂上に到着。しかし、雪の粉が、引っ切り無しの視界を遮って、期待した景観は望めそうにない。それに、こんなところでうっかり腰をおろしてしまうと、雪だるまにされてしまうかも、と、空きっ腹を抱えて再度、荷を担ぎ直し、言われるままに10分ほど下った。

 すると今度は、きわめて穏やかな「八丁平」が眼前に開けて来た。
「今度こそ昼や!」と、取るものもとりあえずシートを押さえて
4人して弁当を開く。しかし、期待した握飯は氷を噛むようで、ポットの湯さえ瞬く間にお冷やに変わってしまう。薄いビニールシートの上のお尻なんて、もうアイシング状態で、チクチク刺さる。下り道に備えてアイゼンを、装着する間も疎ましかった。


「行くでぇー」 おっちゃんの合図にリュックを担ごうとして、突然、眼前に広がる雪野ヶ原に日が差して、樹氷、霧氷の小山が見事に変身したのを目にした。
「おぉ!なんという感動」これは、どこかで見たような。そうだ、絵本の世界、安野光雅の絵のようだ。さらに目を細めれば、はるか向こうに大峰山系も霞んで見えているではないか。

これぞ、樹氷で名高い三峰山、今まで何度か写真で目にした「伝説」の風景なのだ。かわるがわる写真に収まっては雄叫を挙げ、「きれいきれい」を連発する。 あまりにはしゃいで、下山ルートを誤り、雪が背中に滑り込む「樹氷トンネル」を辿るも、それぞれがそれぞれの思いで狂喜乱舞したまま。それをそっくりそのまま冷凍保存して、大阪に持ち帰ることとなった。

怖さを恐れず、たまには行ってみるものですな 雪山へ。