5/1(土) 晴れ 天ヶ岳 スルッとKANSAI 3dayチケットの山行



 その日の最高気温が20℃を越えてしまうと、いくらアクセスが長くても、10時スタートは厳しいかもしれない。せっかく「鞍馬」まで遠路はるばる、電車を乗り継いでやって来たのに、「鞍馬寺」門前の茶店や「仁王門」を、やり過ごして、人気のない車道を横切るのも、少々辛いものがある。これもすべて、不慣れな土地での「ガイド本」任せの山行だからなのだ。
それでも、いきなりのヒメシャガとオドリコソウの群生や、こいのぼりを揚げるおじさん達など、風物詩満点の出会いに遭遇して、すこぶる上機嫌な今日の山行は始まった。

 だが、いきなり数百年間使用という、本日のコース最大の急坂(これでか?)を登りきった所に開けた視界(どこや?)。そして、やがて展望のある伐採地(展望ないでぇ〜)は、貴重な休憩ポイント。と立て続けに記載される大ウソ案内に、「ガイド本」への信用をすっかり無くしてしまう。
そして「北山の稜線を目前にできる気持ちの良い三叉岳(昼食スポット)」通過が、11時20分ごろだったのが、運命の分かれ道となり、ついに「ガイド本」コピーを畳んでの続登。おかげで「北山杉」のすがすがしい森林浴が、突然もよおした空腹感に苛まれつつ、アップダウンを重ねる「難行苦行」の山行に置き換えられてしまうことになる。

ところで、先ほど来の眼前に飛び交うこのハエの群れは、一体何なのだ。暑さのためにウニ状になった脳ミソめがけて、取り付いてくる「うるせぇーヤツら」。 「五月の蠅」と書いて(うるさい)とは、実にうまいことを言ったものだと、ひたすら感心。しかし、「おすすめシーズンが5月まで」となっているにもかかわらず、「不快なハエにはご用心」 なんて、どこにも書かれていないとは、何たる手落ち。よしんば、こんな迷惑害虫のまつわり付く山中で、弁当なんかを広げようものなら、ヒッチコックよろしく、あっという間に集中攻撃の憂き目に遭ってしまいそうだ。と、シューマイの辛子を、ひねり出すはだから、弁当箱めがけて飛び込むハエの群れを思い浮かべて、思わず「ぞぉーっ」とする。

結局、人の声がしたと思ったところが、待望の山頂で、確かに広場はあるが、展望の全くない休憩所で、こんなに大勢のグループが「シャクナゲ尾根」を目指して来ていたのだと、唖然としつつも、なるべく人目につかない隅っこにそっと腰を下ろして孤独なお昼となる。それでも食べ始めたら、ハエのことすら気にならなくなり、なーんだ、イラついていたのは、単にお腹が空いていただけだったんだ・・・と、現金な自分が少々恥ずかしくて苦笑。その背後で、逆コースを「大原」から登って来たというご一行が
「イヤァー 少しくらいは残っていると思ったんですけどね。もう、すっかり終わってましたわ。」と、今日の唯一の楽しみを毟り(むしり)取るような話題を、ご丁寧にも提供して下さっているのが、不幸にも聞こえてしまう。

「てめえら うるせぇーんだよぉ!」 思わず振り向きたくなるのを、必死に押さえて、ビニールシートをしまい、人気の消えた山頂の標識をカメラに収めて、さみしく出立する。
再び苛立ってしまった気を、押さえる間もなく、「大原」への右折を逃して「百井峠方面」へと直進。だが、その先に待っていたものは、360度視界の開けた鉄塔広場のあっぱれな展望所。(その先の峠には、琵琶湖まで見渡せる景勝地まであるらしい)
これは、「ガイド本」にも載っていなかった、今日始めてのご褒美だ。と、もはやシャクナゲのために残す必要もなくなった、フイルムを惜しげもなく使って狂喜乱舞する。

再び、下山路を誤って北進しかけて、慌てて引き返せば、
「こっちからも『大原』へ行けるのですか?」と3人のおば様。
「いえいえ。私は道を間違えて行きかけただけで、これは別ルートですよ。どちらから来られたのですか」と、余計な事まで白状しつつ問い返せば、
「あなたが私達の後ろを軽やかに通り過ぎて行くのを、『薬王坂分岐』から、追って来たのよ」 とのたまわれる。
もしや「薬王坂分岐」とは、出発点の「鞍馬」から高々20分余り行ったところの、「大原」との最初の分岐ではなかろか。たしかあの時、地図を持つ風でもなく、まさに無防備ともいえるお散歩を楽しんでおられたお歴々がおられたが、お宅らですか。そのお歴々が、見ず知らずの小娘一人そばを通ったくらいで、方向転換し、その後を追ってここまで来られたのか・・と、半ば、あきれ返りながらも
「この先の展望所は、一見の価値ありで、なかなかのものですよ」と、お教えすれど、それには別段、関心がある風でもなく、さらにこちらのお尻にピッタリついて来る。本日3つ目の「うるせぇーやつらだ」と、一人ごちた。

結局、シャクナゲの花は花殻すら残さず見事に消えうせ、これならさっぱり諦めもつくと、脇道のシャクナゲ道にさえ目もくれず「大原」に下り至る。
門前の人ごみに圧倒されつつ、勧められるままに茶店で試飲した昆布茶の煮え湯に舌を焼きつつ、臨時のバスに飛び乗って、ホッと一息。
ようやくウトウトしかけた「出町柳」で途中下車し、止せば良いのに、夫の忠告を守って、「淀屋橋」から「梅田」の地下鉄コースを辿れば,勤め帰りの雑踏に揉まれて、突き飛ばされることしばし。ホウホウの艇で帰宅する結末となる・・・やれやれ